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Chapter 06:最後の課題

会社存亡の危機を迎えた三原は、いつもの公園を何度も訪れて福山を待ったが、
今回はなかなか会うことができない。
そんな時、商品仕入れのために街を歩いていると、福山と思われる紳士を見かけた。
上質なスーツを着こなし、黒塗りの大きな車から出てきた姿は全く別人に見えたが、
その面影に三原は駆け寄って声をかけた。

すみません。福山さんではないですか?

やあ、あなたですか。
事業は順調ですか?

いいえ。
とうとうデジタルブラック社がうちの戦略と同じ
ウェブサイトを立ち上げてきて、
メイン商品を半額で販売する手段に出てきました。
だから、うちの売上はまた低迷してきて・・・

それは大変ですね。
話は歩きながらでいいですか?

ええ・・・。

今度は小手先で解決できる話ではなく、抜本的な問題ですね。

なにか打つ手は?
安く仕入れるルートは僕も探してみたんですが・・・。

価格競争はお互いを疲弊させ、誰にもメリットを生み出しません。
だから、この競争には絶対に乗ってはいけません。

福山と三原は会話をしながら、あるビルの中へ入っていった。
福山がビルの受付に近づくと、受付の女性をはじめとして
そこにいる全員が立ち止まり次々挨拶をしてくる。
会話に夢中だった三原も、思わず受付に掲げられた会社名のプレートを見上げた。

その会社は、電子マネー決済で世界有数の会社であり
ITベンチャーとしても日本を代表する会社であった。

あの・・・。
もしかしてあなたは、この会社の代表ですか??

いいえ、今は違います。
私は創業者で、現在は引退して後進に会社を任せています。
今日は株主総会があるので寄っただけです。

僕・・・そんな立派な方だはと知らなくて・・・!
いままで厚かましく色々とアドバイスをしてもらって・・・
すみませんでした!!

まあまあ。そこのソファーに腰掛けませんか。

え、えぇ・・・。

いまのあなたは、ネットビジネスが何たるかをほとんど理解しています。

アドバイス通りに、がむしゃらにやって来ただけですけど・・・。

しかし、これから靴のキュレートサイトで
日本一のポジションを獲得しようと思うなら、
最後の課題を克服しなければなりません。

最後の課題?

そう。
誰も考えなかった「新たな売り方」を発案することです。

そんな・・・単に靴を売るのに、新しいも何も・・・。

靴のネット販売で世界一になった、ザッポス社を知っていますね?

ええ、業界紙でも良く取り上げられていますから。

この会社は、「買ってから選ぶ」という
新しい売り方を発案したことこそが、現在の規模に成長した要因です。

買ってから選ぶ・・・。

そう。
靴は、返品が多い最たる商品です。
だからこれまでネット通販はタブーとされてきました。

確かに、うちも返品には泣かされています。

しかしザッポス社は「何足でも送ります。
試着してみて気に入ったものだけそのまま履いていただき、
気に入らなければ返品できます」と告知しました。

企業側の負担は増えるけど、顧客は喜ぶサービスですね。

そう、だから安心してザッポス社のウェブサイトで靴を買うのです。
でもここで重要なのは、単なるサービスではなく、
「新たな売り方」を開発したことです。

なるほど・・・。

だからあなたも価格に踊らされないように。
新しい売り方を生み出して、
消費者へのサービスをより向上することに専念すべきです。

でも、僕には新しい売り方を生み出す才能なんて・・・ 。

ほら、またそんな後ろ向きにならないでください。
顧客満足の追求こそ、新たな売り方を生み出す原動力です。

顧客満足の追求・・・。

さて、そろそろ株主総会の時間です。
私は行かなくては。
顧客満足の追求が新たな売り方を生み出す、ですよ。

福山は、もう一度繰り返すと席を立ち、エレベーターホールへ進んで行った。
三原は最後の課題を胸に抱え、とぼとぼと帰路についた。

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